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AIによる自動化が進みつつある現代

AI、そしてロボットという言葉は、近年においてその意味を大きく変えつつあります。
2018年9月、自動運転レベル3(条件付き自動運転)を搭載した自動車の販売について、フランクフルトモーターショーで公開されました。

アメリカのSAEインターナショナルによれば、これまで主流となっていた自動運転レベル2は部分運転自動化呼ばれるもので、「ハンドル操作や加減速等の複数の動作を、自動車に内蔵されたCPUによって支援する機構」を搭載した車を指すとされます。
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レベル3は条件付き自動運転と呼ばれ、限定的な状況化ではすべての操作をシステムによりコントロールするものです。
システムが危険を察知していない場合、交通量や天候などの複数の条件そろった場合にはハンドルから手を離した運転が可能となります。
レベル3は、2019年1月現在日本の法律下では公道を走ることができませんが、法律や道路、自動運転下でのドライバーの訓練、標識や信号機の整備が進めば、実現も不可能ではなさそうです。

http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha07_hh_000281.html

(国土交通省「自動運転車の安全技術ガイドラインの策定」)

技術的課題の解決が進めば、AIによる運転における事故の危険性や責任の所在、保守の方法、安全性の審査方法や運営機関の整備といった、環境面の議論も同時に進められることになるでしょう。これらの前進には技術的進歩だけでは足りず、経済的、政治的、宗教的な議論が不可欠となります。人間社会での運用となれば、むしろこちらの方が解決困難であるかもしれません。

SF小説は科学と人間の矛盾を明らかにする

このようなテクノロジーと人間を巡るあらゆるアンビバレンツ、対抗軸を浮き彫りにするにあたって、SF小説の右にでるものはないでしょう。自動と手動、物質と精神、進歩と停滞、未来と懐古、前進と後退…。SF小説はあらゆる工夫と想像力を持って、科学と人間を巡る矛盾を明らかにしてきました。

アイザック・アシモフの構築したストーリーは、その歴史の中でも随一です。特に「鋼鉄都市」からは、これら対立項の闘いと鮮やかな昇華を読み取ることができます。

スペーサーとロボット、人間の共存する未来

「鋼鉄都市」の舞台は未来のニューヨーク。地球は、かつて宇宙へ進行した人類の子孫である「スペーサー」、スペーサーがもたらした高度な科学によって生み出されたロボット、既存人類が共存しています。
イースト菌と水耕農園を利用した食糧管理を始めとする技術革新により、地球の人口は80億人を超え、労働の多くがロボットに代替されています。

しかし、進歩した文明の代償として、人間は鋼鉄の巨大ドーム内での生活を余儀なくされています。外には人間が生存できないほどの嵐と、ドームから排出された放射性物質が渦巻いており、自然現象のほとんどは失われてしまっています。

そして、高度化したロボットが人間の知的労働さえも代替し始めている事実に、自尊心を失いつつあります。人類の大半は過去の文化に縋り、自分たちの文明を進めたスペーサーとロボットを憎んですらいます……。

スペーサー殺人を巡る奇妙な捜査依頼

こうした時代背景の最中、ニューヨーク市警の刑事ライジ・ベイリは、上席である本部長エンダービィに呼び出しを受け、極秘の捜査を依頼されます。
それは市内で起きた宇宙人(スペーサー)に対する密室殺人事件の犯人を捕まえるため、ロボットであるダニールと協力し捜査するという奇妙な依頼でした。

「鋼鉄都市」には殺人事件の真相を暴くという大きな筋があります。そのメインのストーリーが進む最中、大小いくつもの対立軸が同時に進行し、すべてを巻き込む物語へと昇華されていきます。

並行して進む3つの対立軸

第一に、地球人と宇宙人(スペーサー)という対立軸。人間はスペーサーによって進められた文明の恩恵に浴しながらも、桁違いの武力を持つ彼らを恐れ、人類の未来は彼らの気分次第であると絶望しています。
しかし、スペーサーは地球の環境に適応することができず、生身のまま地球に降りれば病気やウイルスで生きることができません。
人類とスペーサーがコミュニケーションを取るには、通信を利用するか、人間側が滅菌処理を受けた上で宇宙船へ出向かなければならず、ベイリを始めとする多くの人間が屈辱を感じています。

第二に、ロボットと労働者という対立軸。ロボットは、それまで多くの時間と労力を費やしていた労働の大部分から人間を解放しました。同時に、人類はもはや食糧事情に悩むことなく人口を増やすことができます。
しかし、彼らは地球環境に適応できないスペーサーに代わって、人類に干渉する代理人でもあります。加えて、進化したロボットは人類の労働を代替し、一部の人間の職を奪い始めています。

ロボットには、「人間に危害を加えることができない」という趣旨の原則が回路により組み込まれています。そのため、ロボットが人間に危害を加えることは技術上は不可能とされています。それでも人間は、ロボットがいつか人に反旗を翻すであろうイメージを払しょくできず、ほとんどが敵対視しています。

最後は、現代人と懐古主義者という最も大きな対立です。人類は、スペーサーやロボットによって進められた文明を受け入れつつも、ドームの中で管理され、雨や風などの自然現象もほとんど見る事のできない環境は、本来の自分たちのものではないと感じています。
このような思想を強く持った者たちは「懐古主義」と呼ばれ、スペーサーやロボットへのテロを実行する地下組織も存在しています。
このような様々な対立軸をはらみながら、物語はただの殺人事件に収まらず、高度に政治的な、そして人類の未来と存亡に関わる事件へと規模を拡大させていきます。

「両義的存在」を巡る物語

人類を超越する存在による進歩という点では「幼年期の終わり」を思い出す方もいるかもしれません。「幼年期の終わり」に登場したオーバーロードと、「鋼鉄都市」のスペーサーとの大きな違いは、彼らが人類(地球)に対して完全に優位にあるわけは無いという点です。

【感想】「幼年期の終わり」から見る進歩と終焉の変奏系 – 翠緑のエクリ

進歩の代償として人類を苦しめる放射線、空気の荒廃、自然現象の変化が、皮肉にもスペーサーの侵入を阻む要因でもあります。
ゆえに、スペーサーが地球との交渉を図るにはロボットという媒介者の存在を必要とします。そしてこのロボットという存在も、危険な仕事を代替する味方でもあり、仕事を奪う敵でもあります。

その意味では、懐古主義者の働きも両義的です。彼らは人類の伝統的な価値観を守り、人間に自尊心を与えながらも、人間とスペーサー/ロボットとの対立を深めてしまっています。
未来のドーム、そしてニューヨーク市にはこのように「敵であり友である」、「害であり益である」という両義的存在が溢れています。ライジ・ベイリは捜査の過程で、ロボット・ダニールやスペーサー、懐古主義者と関わりを深めていきます。
事件の真実を暴くと同時に、彼らの存在が両義性である意味を自覚し、人類の別の未来に向けて歩みを進めることになります。

「鋼鉄都市」の未来と私たちの未来は違うのか

アシモフが「鋼鉄都市」を通じて描いた未来、そこから見いだせるのは、このような両義的存在の重要性です。
現在の私たちの身の回りにも両義的存在は溢れています。
暮らしを便利にすると同時に仕事を奪うかもしれないAI、他の国の文化と価値観を持ちながら別の国にやってきた(やってこざるを得ない)移民、自分たちの国や土地に愛着を抱きながらも排他的になる郷土民……。※1

私たちは自己のアイデンティティを連続的な存在であると仮定しがちです。しかし、変化の多い時代には、その本質は不安定であるという側面が強く意識されます。
「AIの導入を始めとする技術革新は、労働者にとって危険だ」、「外からやってくる異邦人は敵だ」、「生まれも考えも同じものが味方だ」……このような一面的な思考が多数になるのは、自己の不安定さに耐えられない人間の防御反応であるのかもしれません。

現代の私たちが、ベイリと同じような未来を描くこと、アシモフが「鋼鉄都市」で描いた未来を同じように描くことは、果てして現実の未来であるのか、見果てぬユートピアであるのか。
それは私たちの想像力に委ねられているのかもしれません。

※1 こうした対立感情は世界各地で見ることができます。

イギリスのEU離脱で高ぶる反移民感情とヘイトクライムの実態 | ハーバービジネスオンライン

クルマの「完全自動運転」でなくなる職業・モノ全リスト(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

 

 

 

 

【感想】鋼鉄のドームの先にあるのは未来か、ユートピアかーアイザック・アシモフ「鋼鉄都市」
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