仕事の勉強用に…と買ったものの、予想以上に面白かった本。
複雑な日本の税制度
日本の消費税は、1989年の竹下内閣によって導入されて以降増税を続けています。2018年10月15日の臨時閣議では、次年度以降の消費税を10%に上げる方針が表明されました。
主な理由は高齢化に伴う社会保障費の増大等です。
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日本の税制度は本当に複雑です。
税金については、知識を得ることと同様に、「なぜ税金が必要で、何に使われているのか」という税制についての考え方を知ることが重要です。
本書は、そのための入門の役割を果たしてくれます。
消費税に関しては、増税が定期的に国会で議論されています。ここ10年では2009年の民主党内閣が「税制改革」を大きな方針として掲げました。政権交代により国民の代表となった自民党政権は、増税の必要を訴えつつも、選挙に併せ2014年、2016年と2度に渡り増税の延期を発表、政権を維持しています。
財務省の発表によれば、税収構成比でみた場合、日本の税収の多くは「所得税」に依存しています。OECD諸国の中では、日本は消費税に対する依存度が低く、34か国中29位です。こうした状況も、消費税増税の根拠の一つとして働いているようです。
日本の税金は高いのか
しかし、日本人の中には、税金が高いと感じている人が一定数以上いるようです。先のとおり、選挙のたびに自民党政権が減税を訴えているのは、そのような「国民感情」を重視していることに他なりません。
税金や税率の適性水準がどれほどであるのかを考えるのは、簡単な事ではありません。本書では、税の公平感を考えるにあたって、まずはその機能を考えるよう示唆します。
三つの転機 ピケティの指摘
著者は、本書を第3版として改訂するにあたり、3つの重要な転機を挙げています。政権交代、東日本大震災、トマ・ピケティの『21世紀の資本』の3つです。
とりわけピケティの指摘は重要です。
『21世紀の資本』によれば、資本主義の経済成長は資本をより多く持つものにとって有利に働きます。経済成長は格差の拡大を必然とします。
ホッブズ、ロック、ルソーによれば、民主主義の歴史は、多数者の権力抑制のためのルールです。したがって、民主主義国家における税制の最も重要な機能は、富の再分配と応能負担となります。税金は、社会的弱者の支援、ライフライン等公共インフラの整備に優先的に使われ、多数者や資本家等の社会的強者は、能力に応じた納税をすることになります。
富の再分配と応能負担
このように考えた場合、減税は、長期的には自分たち国民の生活を苦しめることにつながる可能性があります。減税の結果として、公共機能が衰退し、インフラを民間資本に委ねた場合、どれだけ恐ろしいことが起こるか。その事例には枚挙に暇がありません。
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しかし、実際にはその様に感じている人は多くないようです。
それには、税制に関わる不公平感やフリーライダーなど、制度に関わる様々な問題が関係していると思われます。
例えば、年金のように高齢者社会保障費を現役世代が負担するものでは、今後ますます進行した少子高齢化社会を生きるであろう若者世代は、納税額より受給額が下回るであろうことが容易に予想されます。
上述したような高齢者の社会保障費を手厚くするかのような政策提言は、高齢世代と若年・子育て世代の対立を煽るような効果があるでしょう。
しかし実態は高齢者、障がい者等の社会的弱者や、人口減少地区や地方在中者などの周縁セクターに対する公的支援の弱体化が進行しているだけのようにも見えます。
例えば給与をもらう方々にはなじみに深い所得税ですが、所得税の徴収には超過累進税率が適用されています。課税対象額なる所得が195~330万円の人は税率が10%ですが、4,000万超の人は45%になります。
不公平に感じられるのはなぜか
一見して所得に応じた応能負担として働いているように思えますが、ここに所得控除を行うと話は別です。例えば所得300万の人が100万円の所得控除を受けた場合、100万円の10%である10万円の減税となります。一方、4,000万円の人が100万円の所得控除を受けた場合、100万円の45%、45万円が減税である計算となります。(本著では、このような指摘の他、応能負担に優れた制度として、所得控除より税額控除、諸海外で採用されている手当制度の方が公平である可能性が指摘されています)
所得税には他にも、特定のグローバル企業が事業所や工場を海外移転することで、納税を回避しながら国内の環境を利用する「フリーライダー」など様々な問題が挙げられています。(同様の方法は法人税にも見られます)
公平な社会に向けて
このように、税制度は本質的には優れた機能を持ちつつも、特定の層に有利に働いてしまうような問題も様々に抱えています。
税に関わる課題を正確にとらえるためには、税の仕組みや使途、税収の考え方を理解する必要があります。
税に関わる制度は複雑ですが、自分たちの身の回りの制度の理解を諦めず、考え理解することが、真に公平な社会への一歩になるのでしょう。本書はそのための手助けとなります。